和解の効力を否定して過払い金返還請求を認めた裁判例

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(東京高等裁判所平成27年2月25日判決 等)

1、事案の概要
 Xさんは、消費者金融会社Aと契約し、お金の借入れと返済を繰り返していましたが、ある日、A社から、52万円余りの借金が残っていること、同封の書類に署名・押印をして返送すれば、その後は利息が付加されず、月額1万5000円ずつ31回の分割払いで完済することができる、と連絡を受け、Xさんは、自分にとって楽になるものと思い、その書類に署名・押印をしてA社に返送しました。ところが、その書類には、その書類に記載されている条項以外には、お互いに何らの債権債務もないと書かれていました(本件和解)。
 しかし、実際には、利息制限法で引き直し計算をすると、その時点で、借金は残っておらず、かえって175万円以上の過払い金返還請求権を有している状態だったことが判明したため、Xさんは、過払い金(+遅延損害金)の返還を求めて訴訟を提起しました。 

2、裁判所の判断

(1)和解はXさんの錯誤によるもの
 本件和解の際、Xさんは、過払い金が発生していたことを認識しておらず、それを認識していれば、本件和解に応じないことは明らかであるから、過払い金の存否に関する錯誤は、要素の錯誤に当たり、これは動機の錯誤であるが、書類に署名、押印して返送したことにより、動機は少なくとも黙示的に表示されたというべきである。

(2)Xさんに重過失は認められない
 確かに、本件和解の際、過払い金について各種メディアで取り上げられていたことからすると、安易に本件和解に応じたXさんに一定の落度があったことは否定できない。しかし、貸金業者であるA社は、本件和解の際、過払い金が発生していたことを十分に認識していたにもかかわらず、本件和解を持ちかけていること、Xさんは本件和解以前に取引履歴の開示を受けたことも、債務整理について弁護士に相談したこともなかったことに照らすと、Xさんに重過失があったとは認められない。

(3)結論
 以上からすると、本件和解は錯誤により無効であり、過払い金返還請求が認められる。

3、コメント
 このように、借主が過払い金返還請求権の存在を知らずに、まだ自分に借金が残っているものと考えて示談(和解)をした場合につき、示談(和解)の効力を否定して、過払い金返還請求を認める裁判例は最近増えてきています(大阪高裁平成26年3月28日判決、福岡高裁平成26年9月30日判決、東京高裁平成27年5月13日判決、東京地裁平成27年2月26日判決、新潟地裁平成27年4月9日判決等)。