忘れられる権利についての最高裁判決(平成29年1月31日)

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1.平成29年1月17日付記事で紹介した「忘れられる権利」の裁判例について、最高裁での判断(平成29年1月31日判決)が出たため、続報としてこれを紹介します。

2.最高裁判決では、残念ながら、「忘れられる権利」について言及することはなく、原審と同様に、プライバシー権の問題として判断を示したことから、現状において、これを権利として認めることには消極的な考えを示したものと思われます。

3.そのうえで、最高裁は、プライバシー権と検索事業者による表現の自由について、次のような判断枠組みを示しています。
「検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」

4.最高裁は、児童買春に対する社会的非難の強さ、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえること等からすると、一定期間犯罪を起こしていないことを考慮しても本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない、として上告を棄却しました。基本的には、プライバシー権に関する一連の判例の流れを踏襲しつつ、情報化社会における検索事業者の表現の自由が広く国民の知る権利にも資することを重視した判決と思われます。

5.児童買春に対する社会的非難の強さはその通りですが、本件事実が伝達される範囲について、最高裁の言う「ある程度」が真に限定されたものであるかは疑問もあります。そして、利益衡量であるため、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」が如何なる場合であるかは明確ではありません。
 その一方で、最高裁の言及どおり、情報化社会の中で検索事業者の果たす役割の重要性は測り知れない面もあり、過度にプライバシーの保護に傾くことは、国民の知る権利を害する結果ともなりかねません。とすれば、プライバシー権からは独立して保護に値する程に「忘れられる権利」の内容効果が明確となり、新しい権利の一つとなっていくと、こういったケースでの判断枠組みをより明確にしてくれるのかもしれません。