節税目的の養子縁組の有効性

カテゴリー
ジャンル

(最高裁平成29年1月31日判決)

Q1 最近、節税目的でなされた養子縁組が有効と判断されたという記事を読みましたが、どのような事件ですか。
A1 亡Aは、税理士等から、長男Bの子であるY(当時1歳)を養子とした場合に、遺産の課税価格から引かれる基礎控除額が増え相続税の節税効果があるとの説明を受け、Yを養子とする養子縁組届を提出しました。
 Aの死後、Aの長女X1と次女X2が、本件養子縁組は税理士が勧めた相続税対策にすぎず、AとYとの間に真実の親子関係を創設する意思はなかったと主張して、その無効確認を求めました(従って実質上の争いは、相続分がB、X1、X2にYを加えるか否かで3分の1か4分の1なのかということになります)。原審の東京高等裁判所は、X1とX2の主張を認め、本件養子縁組を無効と判断したため、Yが上告したのです。

Q2 養子縁組をすると、なぜ相続税の節税が見込めるのですか。
A2 相続税の計算において、その基礎控除額は、法定相続人が増えるほど増加する仕組みとなっています。
 現在の制度ですと、相続税の基礎控除額は、3000万円+600万×[法定相続人の数]となります。養子縁組を結ぶと、養子は養親の法定相続人となるため、法定相続人が増える場合があります(ただし、実子がいなくて兄弟がたくさんいる場合には、逆に減ることもあります)。その結果、相続税の基礎控除額が増え、相続税が減額となるのです。
  

Q3 裁判所は、どうして節税目的の養子縁組を有効としたのですか。
A3 最高裁判所は、相続税の節税のために養子縁組をすることは、節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである」として「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合でも、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるということはできない」との判断を示しました。
 そして、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、『当事者に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」として、本件養子縁組を有効としました。
 つまり、「節税目的の動機」と「縁組をする意思」とは併存しうるので、本件では、動機はどうあれ縁組をする意思はあり、養子縁組の無効事由には該当しないということです。

Q4 ところで、本件は相続税法上ではどうなるのでしょうか。
A4 国税庁は、課税逃れが明白な縁組では養子分の控除を認めない方針を示しています。
 したがって、相続人間の私法上の紛争は養子縁組が有効(Yに法律上の子として相続権がある)として最高裁判決で終止符を打ったわけですが、税務の世界では「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合」と認定され、Yは子=法定相続人として扱わない場合があり得ますので注意が必要です(相続税法63条参照)。

詳しくは、弁護士にご相談ください。