(大阪高等裁判所 平成31年2月15日判決)
1 事案の概要
アルバイト職員(有期契約労働者)であるXが、勤務先の医科薬科大学Yに対し、アルバイト職員と正職員との労働条件の相違は、労働契約法20条(※)に違反する不合理なものであるとして、損害賠償を請求しました。
Xは教室事務員として、ほぼフルタイムで勤務しており、勤務時間数は正職員と大差がありませんでした。
※労働契約法20条は、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、職務の内容等を考慮して、無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであってはならないと規定しています(なお、令和2年4月1日施行の改正労働契約法では第20条が削除され、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)第8条に不合理な待遇の禁止として同趣旨が整備されます)。
2 争点
本事案においては、(1)Xとの比較対象となる正職員を特定の教室事務員に限定すべきか、(2)労働条件の相違(①賃金(基本給)が低いこと②賞与が支給されないこと③年末年始及び創立記念日における賃金支給がされないこと④年休付与日数が少ないこと⑤夏期特別有給休暇が付与されないこと⑥私傷病による欠勤の場合の賃金の支給及び休職給の支給がされないこと⑦附属病院の医療費補助措置がないこと)の不合理性について争点となりました。
3 判旨
(1)Xと労働条件を比較する正職員について
正職員であればどの部署に配属されても一定の要求水準に見合う労務を提供することができるという合理的な期待のもとに労働条件が定められている以上は、一部署の正職員を比較対象とすることは適切ではないとして、正職員一般を比較対象とすべきであると判断しました。
(2)労働条件の相違の不合理性について
①賃金(基本給)については正職員のうち勤続年数が同じである新規採用職員と比較すべきであるとしたうえで、正職員は重要な施策にも携わり、あらゆる部署への異動の可能性がある反面、アルバイト職員である教室事務員は定型的で簡便な業務や雑務を担当し、異動も例外的であること、賃金(基本給)の相違は月額換算で2割程度にとどまることから不合理ではないとしました。
また、③年末年始や創立記念日の休日においてアルバイト職員に賃金支給がされないのは時給制を採用しているからにすぎないこと、④年休の日数の相違(1日)も計算方法の違いにすぎないこと、⑦附属病院の医療費補助措置も恩恵的なものであって労働条件に含まれるものではないことから、いずれも不合理な相違であるとはいえないとしました。
他方、②賞与が支給されないこと、⑤夏期特別有給休暇を付与しないこと、⑥私傷病による欠勤中の賃金支給及び休職給の支給がされないことについては、労働条件の相違が不合理であり、そのような労働条件を適用したことが不法行為に該当するとしました。
4 まとめ
本判決は、労働条件の差異が労働契約法20条に反するか否かについて具体的な事案に即して判断したものであり、対象者の選定についての考え方や、労働条件の相違の不合理性にかかる判断枠組みについて、実務上参考になる裁判例であると思われます。