~音楽教室における著作物使用について著作権侵害に当たらないと判断した最高裁判決~
1、事案の概要
①X(JASRAC)は、著作権等管理事業法2条3項に規定する著作権等管理事業者であり、著作権者から著作権の信託を受けるなどして音楽著作物の著作権を管理している(以下、Xの管理に係る音楽著作物を「本件管理著作物」という。)。
②Yらは、音楽教室を運営する者であり、Yらと音楽及び演奏 (歌唱を含む。以下同じ。)技術の教授に関する契約を締結した者(以下「生徒」 という。)に対し、自ら又はその従業員等を教師として、上記演奏技術等の教授のためのレッスンを行っている。生徒は、上記契約に基づき、Yらに対して受講料を支払い、レッスンにおいて、教師の指示・指導の下で、本件管理著作物を含む課題曲を演奏している。
③Yらは、XにYらに対する本件管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等が存在しないことの確認を求めて提訴した。
④第一審(東京地方裁判所)は、生徒による演奏を含むレッスンにおける音楽著作物の利用について、本事件の事情を踏まえて、Yらが音楽著作物の利用主体であると判断し、Yらによる著作権侵害であると判断したが、原審(知的財産高等裁判所)は、Yらは、音楽著作物の利用主体であるということはできない、として、Yらの請求(著作権侵害には当たらないから賠償責任を負わないことの確認)を認めたため、Xが上告した。
※原審が認めた内容
①YらとXとの間において、Xは、Yらが生徒との間で締結した音楽の教授及び演奏技術の教授に係る契約に基づき行われる、教師と10名程度以下の生徒との間のレッスンにおける別紙著作物使用態様目録1記載の生徒の演奏について、Yが著作権者から著作物の使用料の徴収を目的として著作権の信託譲渡又は徴収の委任を受けて有するところの著作物(令和3年1月14日時点でYが管理する全ての楽曲をいう。)の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
②YらとXとの間において、Xは、Yらが生徒との間で締結した前記⑴記載の契約に基づき行われるレッスンにおける別紙著作物使用態様目録4記載の生徒の演奏について、同⑴記載の著作物の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
2、最高裁判所の判断
結論:上告棄却(XのYらに対する請求権は存在しない)
理由:
(1)演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
(2)Yらの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。
(3)生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。
(4)教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。
(5)なお、Yらは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
(6)これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、Yらが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。
→YらはXに対して本件管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償責任を負わない。
3、コメント
著作権法における利用主体の問題については、“クラブキャッツアイ事件”にかかる最高裁判所昭和63年3月15日判決が、いわゆる「カラオケ法理」(主として、(ⅰ)行為に対する管理・支配と(ⅱ)営業上の利益の帰属という2つの要素に着目して著作物の利用行為の主体を判断する考え方)を提示したと考えられていました。
しかしながら、この「カラオケ法理」は、本件の音楽教室等著作物を利用したビジネスを萎縮させるものであるとして、批判の対象になっており、「カラオケ法理」をそのまま適用せずに、個別具体的な事情を踏まえて総合的、規範的に判断を行なう裁判例が出ていました。
本件も、「カラオケ法理」をそのまま適用せずに、「演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。」として総合的、規範的に判断を行っています。
以上