宗教法人への解散命令~旧統一教会事件について~

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はじめに
 令和5年10月13日、文部科学大臣は、宗教法人法に基づき、旧統一教会(現 世界平和統一家庭連合)に対する解散命令を東京地方裁判所に請求しました。
 令和7年3月25日、東京地方裁判所は、当該団体に対し、宗教法人法に基づく解散を命じる決定をしました。現在、当該団体より、この決定に対する即時抗告がなされ、東京高等裁判所において審理係属中です。
 今回は、宗教法人への解散命令について、解説いたします。


Q1 宗教法人への解散命令とは何ですか。
A1 
 宗教法人法に基づき、裁判所が宗教法人を解散させることができる命令のことです。


Q2 解散命令は、宗教法人法のどのような規定に基づくものですか。
A2 
 宗教法人法の第81条第1項に、解散命令について、以下の定めがあります。
 「裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。」 

  
Q3 「所轄庁」とは何ですか。
A3 
 宗教法人の監督官庁のことをいいます。原則は、宗教法人の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事が所轄庁となりますが、例外的に文部科学大臣が所轄庁となる場合があります。例外的な場合とは、他の都道府県に境内建物を備える宗教法人や当該宗教法人を包括する宗教法人、または他の都道府県にある宗教法人を包括する宗教法人の場合です。
 旧統一教会は、日本国内に複数の教会や事務所を保有しており、全国的な活動をおこなっていることから、所轄庁が文部科学大臣となっていると思われます。


Q4 解散命令が認められる要件(解散事由)はどのようなものがありますか。
A4 
 宗教法人法第81条第1項には以下の定めがあります。
第1号 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
第2号 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたってその目的のための行為をしないこと。
第3号 当該宗教法人が第二条第一号に掲げる宗教団体である場合には、礼拝の施設が滅失し、やむを得ない事由がないのにその滅失後二年以上にわたってその施設を備えないこと。
第4号 一年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いていること。
第5号 第十四条第一項又は第三十九条第一項の規定による認証に関する認証書を交付した日から一年を経過している場合において、当該宗教法人について第十四条第一項第一号又は第三十九条第一項第三号に掲げる要件を欠いていることが判明したこと。

 上記の各号の要件に1つでも該当する場合には、解散命令事由があるとして、解散命令が認められます。
 旧統一教会の事案では、国側は信者らの寄付勧誘について教会側の賠償責任を認めた民事判決が32件あり、和解や示談を含む被害額は約204億円にのぼるとして、解散命令の要件を満たすと主張し、第1号及び第2号前段に基づき解散命令請求をしました。
 そして、裁判所は決定において、不法行為に該当する献金勧誘等の行為は、「コンプライアンス宣言前後の約40年の長期間にわたり、全国的な範囲で行われており、総体として、類例のない膨大な規模の被害を生じさせたものといえ、同宣言後についてみても、その被害は縮小傾向にあるものの、近時まで途切れることなく続いており、なお看過できない程度の規模の被害が生じている」と厳しく指摘し、同教会の行為は「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」と認定しました。


Q5 解散命令が確定するとどうなりますか。
A5 
 当該団体の宗教法人としての法人格は喪失します。宗教法人ではなくなった以上、税制上の優遇措置が受けられなくなります。宗教活動による所得であれば、法人税はかからず、また、宗教法人に使う土地や建物は固定資産税などの税金がかからないという優遇措置がありますが、これらが受けられなくなります。また、法人名での銀行口座の開設や不動産の登記もできなくなります。
 しかし、法人格を失っても、宗教団体として継続することはでき、信仰や布教などの宗教活動を行うことはできます。これは、信教の自由という憲法上の保障があるからです。
 とはいえ、法人格を有していたときに課されていた財産目録などの書類を所轄庁に提出するという義務がなくなり、公的な監視の目が届きにくくなるという懸念はあります。