仮差押え後に土地が売却された後、本執行手続きが開始した事案において法定地上権の成立を認めた最高裁判決

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(最高裁平成28年12月1日判決)

1.法定地上権とは
 法定地上権とは、競売手続きにおいて、土地及びその上にある建物が同一の所有者の場合に、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により土地と建物が別の所有者になったときは、その建物について、法律上当然に地上権が設定される、という制度です(民法388条、民事執行法81条)。
 法定地上権が規定された趣旨は、①当事者の合理的意思、②建物取り壊しによる社会経済的損失の防止(公益的要請)にあるといわれています(最高裁平成9年2月14日判決)。

2.本最高裁判決における争点
 法定地上権が成立するには、条文上、強制競売手続きにおける差押えの時に、土地と建物が同じ所有者に属してなくてはなりません。しかし、本件では、強制競売手続きおける差押えに先行して、建物と底地の一部に仮差押えがされていたところ、この仮差押え時には、土地と建物が同一所有者に帰属していましたが、強制競売手続きにおける差押え時には仮差押えの対象となっていない底地の一部が売却され、土地(の一部)と建物が別の所有者となってしまっていました。
 そこで、仮差押え時を法定地上権成立の基準時とすることができるか否かが争点となったのです。

3.最高裁判所の判断
結論:法定地上権の成立を認めました。
理由:
①仮差押えの時点では土地の使用権を設定することができない。
②仮差押え後に土地が第三者に譲渡されたときにも地上建物につき土地の使用権が設定されるとは限らない。
③社会経済上の損失を防止しようとする民事執行法81条の趣旨に沿う。
④地上建物に仮差押えをした債権者は、地上建物の存続を前提に仮差押えをしたものであるから、地上建物につき法定地上権が成立しないとすれば、不測の損害を被る。

4.コメント
 原審では、法律の文言や土地の譲渡後に譲受人と土地の所有者との間で使用権を設定できること等を理由として法定地上権の成立を否定していましたが、本判決は上記②のように、必ずしも土地の使用権が設定されるとは限らない、としてこれを否定し、法定地上権の制度趣旨に照らして法定地上権の成立を認めていました。
 条文の文言上は抵当権の実行を要件としていることから、文言解釈上は無理があるのは否めません。しかし、法定地上権の制度趣旨に合致した場面であり、また、仮差押え債権者からすると、法定地上権が成立しなければ、過剰な仮差押えであっても、行わざるを得なくなることや、強制競売後の建物の譲受人としても建物を取り壊さなくてはならない危険があるため、不測の損害が生じるおそれがあります。さらに、そのことによって、競売価格も下落してしまうおそれがあり、結論として仮差押えという制度を潜脱できてしまうことを考慮すると、妥当な判決であると考えられます。