カスタマーハラスメント対策の義務化について

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~改正労働施策総合推進法が令和8年10月1日から施行~

Q1、最近よく耳にするカスタマーハラスメント(カスハラ)とは何でしょうか。
A1、
 カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客(カスタマー)等が企業に対して理不尽な言動や著しい迷惑行為を行うことを意味します。労働施策総合推進法で定められた厚生労働省の指針によると、カスハラは次の①~③をすべて満たすものと定義されています。
①職場において行われる、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、
②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、
③当該労働者の就業環境を害すること


Q2、カスハラの定義だけを聞くと抽象的で内容がわかりにくいのですが、具体的にはどのような行為がカスハラに該当するのでしょうか。
A2、
 厚生労働省の指針では、以下のような言動が例示されています。
<言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの>
①そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
 例:性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること。
②契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
 例:契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること。
③対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
 例:契約金額の著しい減額を要求すること。
④不当な損害賠償要求
 例:商品やサービス等と無関係である不当な損害賠償要求をすること。

<手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの>
①身体的な攻撃(暴行・傷害等)
 例:殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと。
②精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
 例:・労働者の人格を否定するような言動を行うこと。
   ・土下座を強要すること。
③威圧的な言動
 例:大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること。
④継続的、執拗な言動
 例:同様の質問を執拗に繰り返すこと。
⑤拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
 例:長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること。

Q3、企業や労働者側に落ち度がある場合には、顧客の言動はカスハラに該当しないのでしょうか。
A3、
 企業や労働者側に何らかの落ち度があっても、顧客の行為が社会通念上許容される範囲を逸脱している場合には、カスハラに該当します。例えば、店舗で渡した商品内容に間違いがあり、企業側が非を認めて謝罪と商品交換を行っているにも関わらず、土下座での謝罪を強要したり、法外な賠償を行わないとインターネットにこのことを書き込むと脅したり、連日店舗を訪れて大声で店員を叱責するような行為はカスハラに該当する可能性が高いと考えられます。

Q4、カスハラに対して、警察に通報して対応することは難しいのでしょうか。
A4、
 下記のとおり、カスハラには、状況によっては刑罰の対象となる行為が含まれています。
暴行罪・傷害罪: 殴る、蹴る等の行為
名誉棄損罪・侮辱罪: 衆目を集める場での労働者の人格や名誉を傷つける言動
脅迫罪・強要罪: 危害を加えると脅したり、脅すことで義務のない行為を強要したりする行為
威力業務妨害罪: 嫌がらせ目的の繰り返しの電話や、騒ぎを起こして業務を妨げる行為
不退去罪: 店舗からの退去を命じているのに居座る行為
※上記は典型的な刑罰と対象行為のみを挙げています。
 もっとも、刑罰法規の適用が可能か否かは、個別的な状況によりますので、刑罰法規の要件を満たさない程度のカスハラも想定されます。したがって、すべてのカスハラについて刑罰法規で対応し切れているわけではありません。


Q5、事業主においてカスハラ対策が義務化されたと聞きましたが、どのような内容なのでしょうか。
A5、
 近年のカスハラ被害の増加傾向を踏まえ、令和8年10月1日から、カスハラ対策の強化が盛り込まれた改正労働施策総合推進法が施行されることになりました。
 これによると、事業主は、下記のような対策を行うことが義務付けられています

◆事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
①カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
②カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容(※)を、労働者に周知する
(※)管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ 等

◆相談体制の整備
③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
④相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする

◆事後の迅速かつ適切な対応
➄事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑥被害者に対する配慮のための措置を行う
⑦再発防止に向けた措置を講ずる

◆対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置
⑧特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する

◆そのほか併せて講ずべき措置
⑨相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
⑩相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

Q6、今回の法改正で事業主にカスハラ対策が義務付けられたことで、どのような影響が想定されるのでしょうか。
A6、
 今回の法改正よりも前から、カスハラに対して事業主が体制を整備していない場合や、不適切な対応を労働者に指示した場合には、安全配慮義務違反(事業主が労働者の心身の健康や安全を守るために配慮すべき義務)によって、事業主の法的責任が認められることがあると考えられてきました(責任を肯定した例として甲府地判平成30年11月13日(労働判例1202号95頁)、責任を否定した例として東京地判平成30年11月2日(判例秘書L07330691)、横浜地判川崎支部令和3年11月30日(判例秘書07651621)、東京高判令和4年11月22日(労働判例ジャーナル133号36頁)など)。
 今回の法改正により、事業主が講じるべきカスハラ対策の指針が示されたため、カスハラ被害が生じた際の労働者から事業主への責任追及について、労働者側の安全配慮義務違反の主張・立証が行いやすくなったものと思われます。さらには、労働者側からの責任追及に関するリスクを想定して、事業主側のカスハラ対策が今まで以上に積極化することが期待されます。